『田園の詩』NO.71 「夏の夜の静寂」 (1997.9.9)


 山里が帰省客でにわかに賑やかになる8月のお盆の時期、わが家にも京都から友人
家族がやって来ました。

 5日間泊まったのですが、「毎晩、気持ち良く眠れた」と喜んでくれました。夕食でビール
や焼酎を沢山飲んだからではなく、「都会に比べて、夜がとても涼しくて静かだったから」
というのがその理由でした。

 彼らが滞在した8月中旬頃は、私の住む国東半島も、日中はまだまだ猛暑で裸でも汗
が出るくらいです。そんな中を私が、下着・白衣・法衣などを重ね着して、おまけにタビ
まで履いて、お盆のお参りに出掛けるものですから、女房はさも気の毒そうな目で私を
見ています。

 しかし、当地は、ちょうどお盆を境に、夕方から涼しい風が吹くようになります。そして、
昼間あんなに騒々しく鳴いていたセミも、ツクツクボウシのせつない鳴き声や、ヒグラシ
の「カナカナ」というやさしい声を最後に静まります。

 虫の音もまだ弱々しく聞こえる程度。昨日までクーラーを頼りに過ごしていた彼らに
とって、山里の夜はベストコンディションだったようです。


      
     山里の早朝、日が昇る寸前。西の空に満月がまだ残っていました。
     我が家のすぐ下です。   (08.11.14 6:36写)


 8月に静かな夜があったことに私も改めて気が付きました。田植えが終わってからの
5,6,7月はカエルの大合唱で、その時に泊まった都会の客はなかなか寝付かれな
かったそうです。

 9月になると、今度は虫の音が本格化してきます。コオロギ、スズムシ、マツムシ、ウマ
オイなどはきれいな鳴き声で楽しませてくれますが、クツワムシが「ガチャガチャ」と鳴き
始めると、虫の音も途端に騒音になり、安眠妨害となります。

 山里の夜は年中静かと思われがちですが、このように結構賑やかなのです。京都から
移り住んで、女房はこれに慣れるのに数年かかったといいます。

 お盆のお参りで忙しく、私はお付き合いがほとんどできなかったのですが、彼らは、都会
の喧騒を逃れてしばし田舎の静寂を味わうには、ちょうど良い時期に来たものです。
                                (住職・筆工)

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